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2016.12.25
地方の衰退とタワーマンションの関係
最近、身近でも、またテレビ等でも、お寺の住職が困窮しているという話をよく聞く。つい最近も住職が袈裟姿から作業服姿に着替え、これから旅館の仕事に行くというのがあった。もうかなり前に、同じく住職が土方に出ているという話を聞き驚いたが、さらには焼身自殺されたという悲惨な話には、言葉を失った。
これは、結局、地方が急激な人口減に見舞われていることが、最大の原因であろう。檀家は減少の一途とか、あるいは形はあっても東京などに出て行った息子や娘は、そのまま帰らず、田舎の実家は打ち捨てられていくという図式である。農業(コメ作り)で食って行くことができなくなり、生計を立てるおおもとの仕事の大半が失われたのだから、ほとんどの地方都市、町・村は人口減・衰退となるのは、避けがたいことと言っても過言ではない状況のわけである。
こうしたことは、世の中の常識のはずだが、必ずしもそうではなさそうである。
「田舎に泊まろう」(TV東京系列、2003年4月~10年3月。現在は特番で放送)とか「鶴瓶の家族に乾杯」(1995年8月~)などを見ていると、私は違和感を覚える。
細かい話は別として、要するに、これらの番組に出て来るのは、地域住民の「富裕層」(かなり豊かな家くらいの意味)がほとんどなのではないかと思うからである。今、ああいう番組で取り上げられる地方に、ゆとりのある生活をし、子供も元気にやっている家族など、かなり珍しいと思うからである。
「やらせ」か「仕込み」か「編集」かなどを論じる気は全くない。そういうことではなく、地方で大半の人(家)は、経済的に苦しい生活を強いられており、そういう実態に、かたくなと言っていいくらい目をつぶり、少数派の「富裕層」ばかり取り上げ、地方はこんなに元気だ、みんな明るく、子供たちはすくすく育っている的な番組作りを延々続けているのは、いかがななものかと言いたいわけである。夫婦に子供2人の家族を「標準世帯」と言っていた時代そのものの感覚であろう。
【タワマン建設ラッシュのもたらしたもの】
私が、今日、ここで書きたいのは、こうした地方の衰退と「タワーマンション(タワマン)」の関係についてである。
近年、武蔵小杉(JR、東急等の「武蔵小杉」駅周辺。川崎市)はタワマンが建設ラッシュで、とどまる所を知らないかのようである。
私などが東京に出て来た頃(1960年代半ば)は、まだ高層建築物はほとんどなかった。1971年に西新宿に京王プラザホテルが建設され、その後、周辺には続々高層ビルが建設されていった。「超高層の夜明け」とか言ったような。鹿島建設黄金時代である。
この後もしばらくは、こういう高層ビルは、西新宿以外、そうは広がらなかったように思う。それが、いつ頃か判然としない(面倒なので調べないこと、お許し願う)が、次第に東京の中心部では続々高層ビル(マンションを含む)が建設され出し、大阪、名古屋その他の地方中核都市にも広がって行ったわけである。
中でも、近年はいわゆるタワマンブームである。なぜ、こんなことになったのかと思ったら、1997年、建築基準法が改正され、各種の規制が緩和されたためだった。これで、殺伐とした光景が広がり(あくまで私の主観である)「人外魔境」と私が呼んでいた東京湾沿岸地域には、特に大量のタワマンが建設された。こうした地域の評価も一変、海が見えるということもあって人気エリアになったのだった。
最近のタワマンは、一段とスケールアップ、1団地(複数棟構成のタワマンが結構あるので古風な表現をあえて使う)当たりの戸数は500戸以上が珍しくないというか普通と言っていいくらいだ。THE TOKYO TOWERS(2棟)2794戸、ワールドシティタワーズ(3棟)2090戸のような、まさに一つの街のような巨大タワマンもある。
ある日、私の頭にひらめいたのは、こうしたタワマンで一体どれだけ、人口移動が起きるのだろうか、いやもしかしたら、これこそ、東京の郊外(例えば練馬区の西部や市部の多く)や千葉県の大半がマンションの不人気地域になり、ひいては地方都市の衰退が進むことにもつながっているのではないかということである。
武蔵小杉では、この10年で10棟6000戸のタワマンが建設され1万5000人が移り住んだという(2014年時点)。その後も、なお建設は続き、今後は北口の方で大規模な再開発が予定されている。控え目にみても累計では8000戸が建設され、2万人が移り住むことになろう。
東京都区部で2016年以降完成予定のタワマン(20階建て以上)は92棟、4万5577戸(2015年3月末現在。不動産経済研究所「超高層マンション市場動向2016」)という。
1戸当たり2.5人とすると11.4万人が、タワマン住人になるということである。
【11.4万人の持つ意味】
佐渡島の人口がどれくらいかご存知だろうか。
おおよそは知っていると思っているような人でも、時々チェックしていないと、大きく狂うことになる。息子が小学生の時、先生が世界の人口は26億人と教え、誰かが違うと言っても譲らなかったという。26億人というのは私が中学生くらいの時、つまり半世紀も前の数字であろう。世界の人口は今73億人、息子の小学生の時代でも60億人前後はいたであろう。
佐渡島の人口は、世界の人口と正反対の激変をしているわけである。
1960年=11.3万人
1970年= 9.3万人
1980年= 8.5万人
1990年= 7.8万人
2000年= 7.2万人
2010年= 6.3万人
2015年= 5.7万人
東京都区部では今後(数年内か)タワマンに11.4万人が吸い込まれるわけだが、これは佐渡島全住人のちょうど2倍である。
1棟1000戸の大規模タワマンができると2500人が移住可能、ほどなく5万人になる佐渡島の住人は20棟のタワマンで全員収容できることになる。佐渡島の住人がタワマンに移り住んだわけではないが、タワマンの建設はちょっとした離島の全住人が消滅するくらいのパワーを秘めていることを言いたいわけである。
【タワマンをどうするか】
タワマンの功罪を論じるのは、本稿の趣旨ではないのでしない。
言いたいのは、何も問題を感じず、どんどんタワマンを作って行くと、タワマンのある自治体はどんどん豊かになり、逆にその影響で人口を吸い取られる自治体は、その分税収減で貧しくなるということである。
1棟1000戸の大規模タワマンができると、1戸当たり25万円の固定資産税・都市計画税が入るとしよう。年間総税収は2.5億円である。逆に言えば、住人を引き抜かれた自治体は、その分、税収が減るということである。
別に、これでタワマンを建設許可した自治体が犯罪を犯したわけではないが、野放図に、これを放置すれば、各自治体間の経済的格差は拡大の一方であろう。為政者は、早くこうした問題点に気付き、手を打たなくてはならないことは論を待たないであろう。
何もしなければJR北海道は苦しくなる一方、JR東海はリッチになる一方である。これはJR分割の際のやり方に問題があったとみるべきだろう。例えば「持参金」をはるかに多くJR北海道には渡すとよかったのである。
タワマンに関しても、何もしなければ、東京都はますますリッチになり、東京の郊外やさらに外縁部は、ひいては地方は苦しくなる一方であろう。
小泉・竹中路線、アベノミクス、いずれも、「東京が豊かになれば地方も豊かになる」とか「トリクルダウン」効果を前提にしているようだが、こうした考え方が間違いだったことは、今日の地方の疲弊を見れば、だれの目にも明らかである。
ここでは、処方箋を示すことはしないが、いずれにせよ、上述のような現状認識にたって、根本的に政策転換する必要があるとだけ、言っておこう。
12月25日 0時14分記
これは、結局、地方が急激な人口減に見舞われていることが、最大の原因であろう。檀家は減少の一途とか、あるいは形はあっても東京などに出て行った息子や娘は、そのまま帰らず、田舎の実家は打ち捨てられていくという図式である。農業(コメ作り)で食って行くことができなくなり、生計を立てるおおもとの仕事の大半が失われたのだから、ほとんどの地方都市、町・村は人口減・衰退となるのは、避けがたいことと言っても過言ではない状況のわけである。
こうしたことは、世の中の常識のはずだが、必ずしもそうではなさそうである。
「田舎に泊まろう」(TV東京系列、2003年4月~10年3月。現在は特番で放送)とか「鶴瓶の家族に乾杯」(1995年8月~)などを見ていると、私は違和感を覚える。
細かい話は別として、要するに、これらの番組に出て来るのは、地域住民の「富裕層」(かなり豊かな家くらいの意味)がほとんどなのではないかと思うからである。今、ああいう番組で取り上げられる地方に、ゆとりのある生活をし、子供も元気にやっている家族など、かなり珍しいと思うからである。
「やらせ」か「仕込み」か「編集」かなどを論じる気は全くない。そういうことではなく、地方で大半の人(家)は、経済的に苦しい生活を強いられており、そういう実態に、かたくなと言っていいくらい目をつぶり、少数派の「富裕層」ばかり取り上げ、地方はこんなに元気だ、みんな明るく、子供たちはすくすく育っている的な番組作りを延々続けているのは、いかがななものかと言いたいわけである。夫婦に子供2人の家族を「標準世帯」と言っていた時代そのものの感覚であろう。
【タワマン建設ラッシュのもたらしたもの】
私が、今日、ここで書きたいのは、こうした地方の衰退と「タワーマンション(タワマン)」の関係についてである。
近年、武蔵小杉(JR、東急等の「武蔵小杉」駅周辺。川崎市)はタワマンが建設ラッシュで、とどまる所を知らないかのようである。
私などが東京に出て来た頃(1960年代半ば)は、まだ高層建築物はほとんどなかった。1971年に西新宿に京王プラザホテルが建設され、その後、周辺には続々高層ビルが建設されていった。「超高層の夜明け」とか言ったような。鹿島建設黄金時代である。
この後もしばらくは、こういう高層ビルは、西新宿以外、そうは広がらなかったように思う。それが、いつ頃か判然としない(面倒なので調べないこと、お許し願う)が、次第に東京の中心部では続々高層ビル(マンションを含む)が建設され出し、大阪、名古屋その他の地方中核都市にも広がって行ったわけである。
中でも、近年はいわゆるタワマンブームである。なぜ、こんなことになったのかと思ったら、1997年、建築基準法が改正され、各種の規制が緩和されたためだった。これで、殺伐とした光景が広がり(あくまで私の主観である)「人外魔境」と私が呼んでいた東京湾沿岸地域には、特に大量のタワマンが建設された。こうした地域の評価も一変、海が見えるということもあって人気エリアになったのだった。
最近のタワマンは、一段とスケールアップ、1団地(複数棟構成のタワマンが結構あるので古風な表現をあえて使う)当たりの戸数は500戸以上が珍しくないというか普通と言っていいくらいだ。THE TOKYO TOWERS(2棟)2794戸、ワールドシティタワーズ(3棟)2090戸のような、まさに一つの街のような巨大タワマンもある。
ある日、私の頭にひらめいたのは、こうしたタワマンで一体どれだけ、人口移動が起きるのだろうか、いやもしかしたら、これこそ、東京の郊外(例えば練馬区の西部や市部の多く)や千葉県の大半がマンションの不人気地域になり、ひいては地方都市の衰退が進むことにもつながっているのではないかということである。
武蔵小杉では、この10年で10棟6000戸のタワマンが建設され1万5000人が移り住んだという(2014年時点)。その後も、なお建設は続き、今後は北口の方で大規模な再開発が予定されている。控え目にみても累計では8000戸が建設され、2万人が移り住むことになろう。
東京都区部で2016年以降完成予定のタワマン(20階建て以上)は92棟、4万5577戸(2015年3月末現在。不動産経済研究所「超高層マンション市場動向2016」)という。
1戸当たり2.5人とすると11.4万人が、タワマン住人になるということである。
【11.4万人の持つ意味】
佐渡島の人口がどれくらいかご存知だろうか。
おおよそは知っていると思っているような人でも、時々チェックしていないと、大きく狂うことになる。息子が小学生の時、先生が世界の人口は26億人と教え、誰かが違うと言っても譲らなかったという。26億人というのは私が中学生くらいの時、つまり半世紀も前の数字であろう。世界の人口は今73億人、息子の小学生の時代でも60億人前後はいたであろう。
佐渡島の人口は、世界の人口と正反対の激変をしているわけである。
1960年=11.3万人
1970年= 9.3万人
1980年= 8.5万人
1990年= 7.8万人
2000年= 7.2万人
2010年= 6.3万人
2015年= 5.7万人
東京都区部では今後(数年内か)タワマンに11.4万人が吸い込まれるわけだが、これは佐渡島全住人のちょうど2倍である。
1棟1000戸の大規模タワマンができると2500人が移住可能、ほどなく5万人になる佐渡島の住人は20棟のタワマンで全員収容できることになる。佐渡島の住人がタワマンに移り住んだわけではないが、タワマンの建設はちょっとした離島の全住人が消滅するくらいのパワーを秘めていることを言いたいわけである。
【タワマンをどうするか】
タワマンの功罪を論じるのは、本稿の趣旨ではないのでしない。
言いたいのは、何も問題を感じず、どんどんタワマンを作って行くと、タワマンのある自治体はどんどん豊かになり、逆にその影響で人口を吸い取られる自治体は、その分税収減で貧しくなるということである。
1棟1000戸の大規模タワマンができると、1戸当たり25万円の固定資産税・都市計画税が入るとしよう。年間総税収は2.5億円である。逆に言えば、住人を引き抜かれた自治体は、その分、税収が減るということである。
別に、これでタワマンを建設許可した自治体が犯罪を犯したわけではないが、野放図に、これを放置すれば、各自治体間の経済的格差は拡大の一方であろう。為政者は、早くこうした問題点に気付き、手を打たなくてはならないことは論を待たないであろう。
何もしなければJR北海道は苦しくなる一方、JR東海はリッチになる一方である。これはJR分割の際のやり方に問題があったとみるべきだろう。例えば「持参金」をはるかに多くJR北海道には渡すとよかったのである。
タワマンに関しても、何もしなければ、東京都はますますリッチになり、東京の郊外やさらに外縁部は、ひいては地方は苦しくなる一方であろう。
小泉・竹中路線、アベノミクス、いずれも、「東京が豊かになれば地方も豊かになる」とか「トリクルダウン」効果を前提にしているようだが、こうした考え方が間違いだったことは、今日の地方の疲弊を見れば、だれの目にも明らかである。
ここでは、処方箋を示すことはしないが、いずれにせよ、上述のような現状認識にたって、根本的に政策転換する必要があるとだけ、言っておこう。
12月25日 0時14分記
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