阿川弘之氏(以下敬称略)が亡くなられた。阿川弘之と言えば、私にとっては山本五十六であり、そう言えば阿川は山本五十六の短歌を貶していたなと思い、その辺のことを思い出しながら、あれこれしていたら、宮柊二が何十年か前に朝日新聞に書いた記事が出て来て、これを書く気になったのである。

話が通じないだろうので、説明しよう。
阿川弘之は海軍に入隊した体験を有し、海軍への強い共感の思いから『山本五十六』、『米内光政』、『井上成美』のいわゆる海軍提督3部作を表している。
そのうちの『山本五十六』で氏は山本を好意的に描いているわけだが、短歌については下手だったと書いている(具体的表現がどうだったかは定かでない)。
ところで宮柊二が朝日新聞の連載企画「わたしの母校」の長岡中学(現長岡高校)で、「気骨あった先生たち」とともに山本五十六のことも取り上げ山本の短歌を最後に載せている。切り抜いておいたわけだが、幼かった私は年月日を入れずにおいて今ではいつの記事か不明。大昔のものであるのは確かだが。
もうお分かりになっただろうが(いや無理な話かも)、山本五十六、宮柊二、そして付け足させていただくと鎌倉雄介は長岡中学(高校)卒業生のわけである。
 
その山本の歌。

 かねてより思い定めし道なれど火の艦橋に君登り行く

 燃えくるふ炎を浴みて艦橋に立ち尽ししかわが提督は

宮は「こうした武人の歌をよんだ山本元帥も、かつてはこの長中の生徒(明治33年卒業)だった。」と結んでいる。

宮柊二と言ってもほとんどの方はご存じないだろう。実際私が塾で教えていたとき、テキストに氏の短歌が出て来てうれしかったものだが、名前に振り仮名がふってあり「とうじ」とあるではないか!「柊」は「ひいらぎ」だが音読みは「しゅう」であり、振り仮名をふるのなら「しゅうじ」としなければならない。

テキストに出ていた歌は

 かがやける 少年の目よ 自転車を
 買い与えんと 言いしばかりに

代表作に

 七階に空ゆく雁のこゑきこえこころしずまる吾が生あはれ(『日本挽歌』)

宮は長中卒業後、家業(書店)を手伝っていたが、家業の衰退もあってか間もなく上京。北原白秋に師事、俊英と注目されるが、応召され中国大陸を転戦。戦後は『群鶏』、『多く夜の歌』などの歌集を出し、戦後短歌の代表歌人とされる。

山本五十六の歌も「武人」の歌としてみれば、なかなかいいではないか。

山本五十六は開戦に反対するも、真珠湾攻撃を命ぜられ、日本を開戦に導くことになった。半年、一年は威勢よくやりましょう(正確にどう言ったかは記憶していおらずうろ覚えの記憶で書いていることをお断りしておく)、(その後は・・・・)と言ったという。
日本の敗北を予見しながら悲劇の人生を送ることになる。
海軍と陸軍の対立、時代が陸軍中心から海軍、空軍へと移り行く中、先見の明なく、陸軍主導のままだった軍がいけなかったのか。いずれにせよ、東条英機ではなく、山本五十六、米内光政、井上成美が日本の指導者であったらと、思わずにはいられない。

長岡は1945年8月1日夜、アメリカ軍の空襲に全市域のほとんどが焼き尽くされるほどの被害を受けた(日本一の花火とされる長岡まつりはこの慰霊祭として始まった)。
注=当時はまだ長岡市になっていなかった私の生家(旧三島郡)にも焼夷弾が落とされたことで分かるように、全市域どころか周辺にも爆撃はされたのである。
一地方都市に過ぎなかった長岡がかくも苛烈な空爆を受けた理由として、一説に山本五十六の出身地だったからというが、長岡はこの80年近く前(1868年)にも灰燼に帰している。いわゆる北越戦争(戊辰戦争の一局面)である。
この時の張本人が河合継之助。河合は長岡藩の武装中立を唱えていたわけだが、その成否を決する重要な会談が新政府軍の軍監・岩村精一郎との小千谷の慈眼寺での会談だった。この決裂により、長岡藩はやむなく奥羽列藩同盟に正式に参加、新政府軍との戦闘に突入、激戦の末敗れ、河合も負傷、結局会津・塩沢村で死去した。山本と一脈通じるものがあるではないか。
なお、小千谷会談決裂の原因として、岩村精一郎と河合継之助の格の違いを言う方もいる。岩村ごとき小物ではなく山縣有朋自ら出馬すれば(結果も違っていただろう)というわけである。
ちなみに最後まで河合に付き従った従僕・松蔵の実家は、私の生家から数百メートルのところにある。

いずれにせよ、上司に恵まれないサラリーマンではないが、山本にしろ河合にしろ、傑出したリーダーが時代、環境に恵まれず損な役回りを演じさせられ、悲劇的生涯に終わったということであろう。
両人とも、一時は長岡を灰燼に帰させた人物として評判の悪い時期があったようだが、もちろん、現在は名誉回復されていると言っていいだろう。

8月08日 20時34分記

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